雑誌『方向』 (原田憲雄編著 方向社発行)

『方向』はしがき

ここに掲げるのは原田憲雄・中新 敬両氏が方向社を組まれて公刊された雑誌『方向』の全巻である。最初のころは見ての通りガリ版刷りの同人誌で、それぞれの論文をそれぞれがガリ版を切って、印刷し、表紙を着けて発行された。それは手跡の違いから分かる。発行部数は第 15 号の記載に見られるように四十部であった。以後どれほどの増減があったのかは分からない。第 17 号まではガリ版で、それ以後はワープロかパソコンによる原版をもとに油印されたか、プリンターによる印刷となって、表紙がなくなる。途中までは両氏の共同作業であったようだが、後には原田さんの独力による発行となったらしい。創刊は昭和 28 年西紀 1953 年 3 月 20 日、終刊は第 174号 1996 年 1 月 10 日。『方向』全 174 号は、実に四十三年にわたる独立した研究者の苦闘の足跡である。終刊号には終刊の辞などというものはなく、詳しいことは分からないのだが、原田家に保存されている分と配られて所持されているものが一致し、また 1996 年は原田さんが京都市中から滋賀県大津の田上町に移られた年でもあるので、それで終刊とされたのであろうと推測する。そしてこの雑誌の続編が、われわれがすでに資料庫にあげた『李賀研究』である。以上この同人誌・個人誌の外側から見たほんの概略を述べた。内容にわたっては今後これを土台に研究の発展なり議論なりが起こることを期待したい。

雑誌の現物をもとに一葉ずつスキャンして、ここに見られるようにしてくださったのは高井美香さんである。その労に対して深い謝意を表する。またすでに原田さんの生前に許諾を得たとは云うものの、今度資料庫への公表を許可された長束道子さんにも研究者の端くれとしてここに謝意を表したい。

2023 年 11 月 25 日、中島長文